生まれて初めてピンヒールを履いて出掛けた

母がもう履かないと言って渡されたただの黒いピンヒールは見るからに年季が入っていたが、むしろ初めてピンヒールを履く身としては少しくたくたくらいのほうが履きやすいようにも見えた。
 
履いてみたら馴染んだものの、足首の肉が乗っかってしまい絶望した。
身の丈に合わせるようにラクチンズボンを履きました。ええ。足首隠しました。
まあ足首隠したところでデブは隠せないが。
 
 
外に出ると自分の視点が高くなり、背筋がのびた気がした。
いやなんか思春期みたいなこと言ってるけどアラサーだからね。これ。
今更何言ってんだよって話だ。というか私だって学生のときはアラサーになったら毎日ハイヒールをカツカツ言わせて都会を歩いてると思ってたよ!!
なんで毎日くたくたのスニーカーなんだろ!!不思議!!!
 
 
んでピンヒールを履く自分にどきどきしながら電車乗ったわけ。
もうさいつもなら壁にもたれまくってるのに、この時ばっかりはね、しゃんと立ったよね。ホホホ。
 
 
向かった先は美術館である。今だから言う、バカ!バーカ!!ピンヒールで美術館だけはやめとけ!!なに素敵な知識人ぶってんだ!!バカ!!!
 
 
まずあの静まり返った空間でピンヒールの音の目立つこと目立つこと。うるさいったらない。しかもなんかいやに響いて聞こえる気すらする。
しかも履き慣れてないが故にカツカツという音の間に「ズキョッ」とか「ギャゴッ」みたいな妙な音も奏でてしまい恥ずかしいったらない。
そして混雑する美術館の流れの悪さ。もうね、いっくら並んでも一向に進まないの。でも並ばないと絵が見えないの。なんかへんな奴が連れにウンチクたれてるせいで詰まっていることが多い。早く進めや!
 
そして長蛇の列に並びつつ自分の足音のブサイクさを気にして大股で歩いたりしていたら、まだ途中までしか見ていないのにボロボロに疲れてしまった。
更にはピンヒールの高低差で足が前の方に落ちていくから足の裏がこすれて体育館で転んだときの膝みたいに熱くて痛い。
 
もうせっかく来たのに帰りたくなってしまった。痛い。つらい。
 
もはや並ばずに足を引きずりながら人ごみと絵をかき分けて美術館を飛び出した。
 
 
急いで靴を脱いで足の裏を見た。
まず、絆創膏をはがしたときみたいな匂いがした。
足の裏には水ぶくれができていた。泣きそうになった。
今までも調子のってこんな風になったことが何度だってあったのにどうして学べないのだ。
 
はじめてパーマをあてにいってオバサンスタイルにされたあの夏。
赤リップが流行っていると聞いてべらぼうに塗りたくり、歯まで真っ赤にしたまま街を闊歩したあの秋。
はじめて髪を脱色したら毛先が毛玉のように絡まり、泣きながら深夜にほどいたあの冬。
ピンヒールで美術館に行き、足が異臭を放つ水ぶくれのお化けみたいになったこの春。
 
 
ビビディバビデブー
 
 
もっと様々な試みのハードルを下げなければならない。